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山行日 平成18年10月8日(日)・9日(月・祝)
天 候 10/8:雨・雪 10/9:晴れ
人 数 1人
行 程 10/8
新穂高⇒(ロープウェイ)⇒山頂駅→西穂山荘 (テント泊)
10/9
西穂山荘→丸山→西穂独標 手前 ⇒ 往路を下山
アクセス 東海北陸道 高山西IC より新穂高方面へ
新穂高有料駐車場よりロープーウェイ利用
<メモ>
新穂高ロープーウェイ
http://www.okuhi.jp/Rop/FRTop.html

ロープーウェイは時期的に相当の混雑を予想していましたが、天候不良とあってか、30分待ち程度。

新穂高手前に無料駐車場がありますが、三連休とあって満車でした。

<コースタイム>
10/8 
山頂駅発(12:00)・・・山荘着(13:10)
10/9
山荘発(7:40)・・・独標手前(8:40)・・・丸山(9:00)
山荘発(12:10)・・・山頂駅(12:55)
 緊張の単独行へ
会社勤めになってからとんと山はご無沙汰だった。パートナーと休みが合わなくなったこともあるし、これまで平日の貸切登山が当たり前だった私にとって、休日に行列の登山道を歩くのはあまり気がすすまなかったこともある。
しかし、気付けばもう秋の空。10月の連休前にとうとう痺れをきらして、私は急きたてられるように北アルプスにやってきた。
一人ぼっちの山歩きは私にとっては冒険だ。しかも山は大荒れ。カーラジオで穂高の遭難ニュースを聞きながらまさにその地へ向おうとしている私の判断は正しいのか? 不安を抱えながらも、明日以降は好天に向うという天気予報を信じて車を走らせた。
新穂高の無料駐車場は満車。しかたなく、有料駐車場へまわりしばしの休憩。気温も高めで風もないが、雨足が弱まる様子はない。 合羽を着ていざ!出発。
 登山の前のひとっ風呂
新穂高ロープウェイは中間駅をはさみ、二本のロープウェイを乗り継いで山頂駅まで行く。最近、この中間駅に温泉施設が登場した。神宝の湯という露天風呂のみの施設だ。 下山後の温泉は定番だが、さすがの私も登山前にお風呂に入ったことはない。 今日の行程は山荘まで。いくら悪天候とはいってもまだ時間はたっぷりある。ひとっぷろ浴びますか!
新穂高温泉のお湯は無色透明でほのかに硫黄の香りがする。やわらかで気持の良いお湯だ。岩風呂の露天は雰囲気もよく、大きさも丁度よい。洗い場のスペースなどは無いから、まさに下山後よりも登山前がよいのでは!?
 悪戦苦闘のテント設営
さて、体も暖まり気を引締めて山頂駅に降り立つ。一昨日に突如襲った寒気で山は一変して真っ白になった。積もったばかりの雪を踏みしめて人気のない登山道へ入っていく。
途中から雪に変わったが、寒さは感じず、視界も悪くない。岩と木の根の剥きだした登山道を快調に登っていくと、1時間ほどで山荘に到着した。
テント場の確保が出来るか心配だったが、予想外にテント場は空いていて、広めのスペースを確保することが出来た。
さて、いよいよテント設営。 まず、テントの下に薄いシートを敷く。 ・・・当たり前のように飛ばされる。 石を四隅に置いて、なんとかテントを立てる。次にフライシートを被せる。・・・突如襲う突風にフライもテントも吹き飛ばされる。押えているだけで精一杯。 それを繰返すこと数回・・・
手も悴み、気持も萎えて小屋泊まりを真剣に考え始めた時、お隣のテント場の男性が声を掛けてくださった。 ”手伝いましょうか?”
あ〜、情けないけど、助かった!! 本当にありがとうござます。
雲が切れ霞沢岳が姿を現す
こうして助けをかりて、何とか今宵の宿が完成。冷え切った体をシュラフで暖めながら、あれこれ反省。あの程度の風でテントが張れないようでは、稜線ではまず駄目だ。 
今朝の遭難のニュースが頭をよぎる。 この寒さの中、少し向こうに彼らは居るのだ。寒さと不安と恐怖に耐えながら同じ時を過ごしているかと思うと、思わず胸が熱くなった。

俄かに騒がしくなってテントの外へ出て見ると、雲の切れ間にぱぁっと青空が広がり、霞沢岳が姿を現した。今回初めて目にする稜線は感動的な美しさで、思わず溜息がこぼれる。見慣れているはずの山はいつも想像以上の存在感を見せてくれる。 だから何度も登りたくなるのだ。
遠くにヘリの音が聞こえる。すでに陽は傾いているが、この雲の切れ間を逃さずに救助ヘリがやってきたのだろう。もちろん、当事者にも聞こえているに違いない。なんとか救助されることを願うばかりだった。 
 唯一寂しさを感じた夕ご飯
ほうとう風 味噌煮込みうどん
夕食までは小屋の休憩室でのんびり過ごした。小屋泊まりの人だけでなく、登山者全員に開放されている休憩室は本当にありがたい。
暗くなる前にテントへ戻り、夕食をとる。今回は寒さを考慮して、かぼちゃやキノコの入った味噌煮込みうどんにした。 出来はかなり上々で、見た目もおいしそう! 自分ながらに満足して、さぁ、いただきまーす!  おいしい!! けど・・・
あ〜、一人きりの食事とはなんと、寂しいことか。食事にこだわった分だけ虚しさも増すような気がする。 これが唯一単独行で寂しさを味わった瞬間だった。

夜9時過ぎ、小屋の消灯に合わせてシュラフにもぐりこんだ。 ライトを消して闇に包まれるととたんに寒さが襲ってくる。 そして闇は不安も連れてくる。本当に明日は晴れるのかな? 無事に一晩を過ごせるかな? 
 眩しい北アルプスの稜線
翌朝は予報どおりの快晴。風もなく暖かな日差しが気持ちよい、最高の朝だ。
小屋の西側にある登山道を一登りすると、南側に模型のような焼岳と雄大な乗鞍岳にまず感動し、そして、西側に真っ白に雪化粧した笠が岳の稜線が眩しく目に飛び込んでくる。 雪の結晶が朝日に照らされてキラキラと輝いて、エネルギーに満ちた風景が果てしなく広がっている感じだ。 何度も何度も確かめるようにして歩く。
丸山からは峰の連なる西穂高岳が澄んだ秋空にそそり立つように聳えている。
細かい岩葛の登山道は昨日積もった雪が凍てついて滑りやすい。
だんだんと傾斜がきつくなり、尾根の西側をトラバースするようになると、さすがに足元がきつくなってきた。すぐそこに独標の岩場は見えるのだか、これ以上は危険な気がして、引き返すことにする。
当たり前かもしれないが、単独行の方が臆病になるし、慎重になる。
尾根に出て休みながら、先を行く登山者を眺めると、危なげな人も多い。




独標を目前に西斜面のトラバースで立ち止まる
枝に付いた霧氷が昨日の悪天を物語る
”ねぇ、怖いくない?大丈夫かな?”とパートナーに声をかける人も何人かいた。そういいながら、みんな登っていった。
実際、私にしてもパートナーが一緒だったら、ここで引き返すことはまずなかっただろう。
個人が感じる危険信号は人それぞれだが、仲間がいると、その判断は他人に委ねられることが多い。だからこそ、能力以上のことが可能になるのだし、逆に失敗も起きるような気がする。
笠が岳の白い山肌が眩しい
ヘリポートから霞沢岳を望む
展望の良い尾根まで引き返し、お気に入りの場所で朝食をとり、ひたすらボーッとする。風もなく薄手のフリースで充分の暖かな陽気。
自然のエネルギーが体に入ってくるのがわかる、まさに充電だ。

ぐんと元気になって、テント場へ戻り、テントを乾かす間に、ヘリポートで昼食をとる。今回もやっぱりお気に入りの塩ラーメン。ビールとの相性が最高!!

お昼過ぎに小屋を出て往路を下る。
昨日は見えなかった景色が広がり新鮮だ。笠が岳が正面に、そして右手後方には西穂高の険しい稜線がまた違った形相を見せている。

  ↑ 登山道から見える西穂山稜
  
      天を突くような槍ヶ岳の穂先 →
このルートからこんなにも西穂の稜線が見えるとは思わなかった。
山の中腹はところどころ葉が色付いて目を楽しませてくれる。 ちょっとした三段紅葉といったところか。
さっきまで自分の居た稜線があっという間に遠く高くなってしまった。 コンクリートの小さな避難小屋を通り過ぎると、すぐ山頂公園に到着だ。
 ←登山道に華を添える紅葉
     大眺望に歓喜する観光客 ↓
展望台は驚くほどの人の山。 皆がその大眺望に歓喜をあげている。自然の作り出す美ほど絶対的なものはない。何せ、誰もが認める美しさなのだから。 これだけの人ゴミがあまり気にならないのは、無意識のうちにその感動を共有しあっているからかも知れない。
皆よりちょっとだけ多くの自然と触れた私は、少しばかりの優越感に浸りながら、ロープーウェイに乗り込んだ。  (報告者:A)

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