日 時 平成19年5月4日(金・祝)・5日(土)
天 候 晴れ
人 数 単独
行 程 中房温泉登山口-合戦尾根-燕山荘 (小屋泊)
<メモ>
・第2ベンチからアイゼンを装着しました。
・合戦小屋は飲み物など簡易営業をしていました。
・合戦小屋より上部は夏ルートではありません。
・燕山荘〜山頂はアイゼンなしで歩行。東側の登山道は要注意
・朝晩の冷え込みで、山頂では一時デジカメが稼動せず

GWの北アルプスはまだ深い雪の中。積雪期の山はさすがに怖く一人で出かけるには覚悟がいるが、燕岳であれば何度も無雪期に登っているし、超人気の山であるから登山者も多いだろうと思い、思い切って登ってみることにした。
夜明け前に名古屋を出発し、7時頃に中房温泉に到着した。さすがにGWとあって、第1駐車場も第2駐車場もいっぱいで、少し下った有明荘の裏手にある第3駐車場へとめる。
登山口までの10分ほどの登りですでに汗ばむほどの気温。登山口には登山者でごったがえしている。
これだけの登山者がいれば安心だ。緊張もだいぶほぐれていざ出発。
有明荘の裏手にある第3駐車場 登山客でごったがえす登山口 第2ベンチ
今回は小屋泊まりなので荷物は軽いが、その分足が重い。この冬靴、出掛ける前に重さを計ってみると4キロもあって驚いた。 一歩一歩踏みしめながらリズム良く登る。久しぶりの山登りだったが、調子良くだんだんとペースもあがり、玉のような汗が額から吹き出る。
第1ベンチではアイゼンの装着をしている登山者が居なかったので、そのまま素通りし第2ベンチへと向う。途中、雪が見え始めたが、問題なく歩行できた。
第2ベンチでアイゼンを付け、さらに足が重くなった。冬靴は以前からカカトの靴擦れに悩まされ、皮が馴染むまでの辛抱と思って我慢しているが、馴染むほど履かないために毎度泣かされる。わかっていることなので、靴擦れ防止用のテープを張ってあるが、すでに心もとない。
第3ベンチあたりまで登ると、大天井への稜線が眺望できるようになる。3000m峰の壁のような稜線を目の当たりにして感激する最初のシーンだ。山の景色は何度見ても、想像以上の美しさだが、雪山のそれは、思わず胸が熱くなるほど感動的な美しさだった。
登山道から大天井への稜線を望む 真ん中に蛙岩
富士見ベンチから合戦小屋まではかなりの急登であり、積雪があるために、夏道のごとくジグザグ道ではなく、尾根を直登するようになる。この時点でアイゼンは必須である。合戦小屋までは夏と同じペースで登ることが出来た。
合戦小屋はまだ半分雪に埋もれている。小屋の前に簡易的に売店を設けてあり、スタッフが元気に働いていた。
空いているベンチを見つけてコーヒーを沸かしているうちに、みるみる寒くなり、終いにはガチガチと歯が鳴るくらいに震え上がってしまった。慌てて、インナー以外の衣類を着替えて、オーバーウェアを羽織るとおさまったが、これだから雪山は怖い。
暖かいコーヒも飲み終わる頃にはアイスコーヒーになってしまうので、直接カップをバーナーで暖めながら飲んだ。
登山客で賑わう合戦小屋 総重量は・・・ とにかく重い!
合戦小屋より上部は夏道のルートを外れ、そのまま尾根上を歩くようになる。夏場は被い茂っている木々も、今は雪の中に埋もれ、時折雪の中からオブジェのように枝が伸びている。
ふと大天井の稜線に目をやると、その向こうに槍ヶ岳の黒い穂先が見えた。これも尾根上を歩く積雪期にしか見られない景色だ。
合戦ノ頭はただの雪原。道標が少しだけ頭を覗かせている。燕岳の稜線も眺望できるようになり、尾根の先端に見える小屋に向って、トレースがキレイについている。
この辺りは視界の悪い日は気をつけたい場所だ。
山並みはもちろん、斜面のダケカンバの幹も、光る雪面も、真青な空も、何もかもが素晴らしい被写体で、カメラから手が離せない。
ほんの数メートル登っただけで眺める景色はまるで違う。
登山路はトレース通りに歩いていれば、特に問題はない。滑らないように注意して歩くだけだ。
1時間ほど歩くと、小屋直下の少し嫌な斜面に取り付く。
遥か遠くに槍ヶ岳の穂先が見える
小屋を左に回りこみ、ちょうど夏場の炊事場あたりに出た。
大天井まで伸びる尾根の斜面は、妖しい光沢を帯びてテラテラと光っている。
風雪によって作られた雪尻は雪山の象徴ともいうべき自然の造詣美だ。
小屋の西側を回ると、雪は殆ど付いておらず、吹き付ける風の強さを物語っていた。
尾根につくトレースと登山者 雪面見えるダケカンバの木立 まるでオブジェのよう その影すらも芸術的
尾根の先に黒く見えるのは燕山荘 小屋の直下 傾斜がきつくなり少し緊張する
テラテラと光る雪面の向こうには天を突く槍ヶ岳
小屋から眺める燕岳は、ピラミッド型の山容に岩塔郡が幻想的な雰囲気をかもし出す。白い雪をまとった燕岳も、それはそれは息を飲む美しさだ。
無事に辿り着いた満足感と、この展望に胸躍る。
状況次第で山頂は登らないつもりでいたが、ほぼ西側をまわるようにルートが付けられているため、そんなに危険はないようだ。
念のため、他のパーティーの後を追うように、山頂へ向けて出発した。
    
     小屋の前から望む燕岳 花崗岩のオブジェが特徴的 
アイゼンの爪に注意しながら砂地を歩き、山頂手前で一度東側へ回る。雪尻が大きくせり出し出来るだけ尾根に寄って歩いた。
山頂からの展望はいうまでもなく素晴らしいもので、北は立山、剣まで望むことが出来る。
TNFのポスターを狙ったショット?? 山頂から槍ヶ岳を望む 四方に伸びる尾根がスケールの大きさを物語る
北燕岳の東壁に付いた雪も見事で、荒々しい岩壁が所々顔を出し険しさを引き立たせていた。
山頂直下の岩場で靴を脱いで、ゆっくりくつろぐ。見渡す限りの山の壁。この壮大な自然の中、点のように存在する自分に満足する。
白い雪に映える黒い岩のオブジェ 雪に覆われた北燕岳の切り立った岩壁
稜線に沈む夕日
GWの山小屋は混雑を覚悟していたが、通常3名定員の寝床に2名で宿泊することが出来た。どうやらお隣も女性の単独行だ。
燕岳をレポートするのは数回目だが、毎回毎回この燕山荘については高い評価をしている。本当にくどいようだが、何時泊まってもすごい山小屋だと思ってしまう。どうしたらあそこまでスタッフ教育が出来るのだろうかと感動すら覚える。
今回も、よく気がつき、よく働き、素敵な笑顔で接客するスタッフ達を見て、本当に頭の下がる思いだった。
夕食時はオーナーの赤沼氏のお話を伺うことが出来た。
 ・積雪期の中でも春山は非常に危険な時期であること。
 ・雪が腐ってくるため、一度滑ったら止まらないこと。(滑らないことが肝心)
 ・積雪期は低体温症に気をつけること。
 ・汗をかいた体に雨、風が当たると非常に危険(低体温症になる)。汗をかかずに登る。
 ・緊張すると過呼吸になる場合がある。リラックスすること。
 ・合戦小屋〜富士見ベンチは下山時要注意
 ・明け方はアイスバーンになっているため、日が昇って雪が緩んでから下山を開始すること。

私が合戦小屋で震え上がったのは、まさに大量にかいた汗のせい。あの状態で天候が荒れて稜線などを歩こうものなら、あっと云う間に低体温症にかかってしまうのだろう。 
いつも楽しい語り口で安全な登山を呼びかける赤沼氏。登山者教育にせよ、スタッフ教育にせよ、赤沼氏の弛まぬ努力をひしひしと感じる。夕食後、稜線に落ちる夕日を凍えながら待ち、宝石のように輝く瞬間をカメラに収めていそいそと小屋へ戻った。

翌朝はゆっくり出発するつもりでいたので、朝食を抜きにしてもらって、寝床でぐずぐずする。
お隣の女性はどうやら写真が趣味のようで、夜が明ける前から立派な三脚を持って出て行った。
本日も快晴!朝日のあたる雪面がキラキラ輝き、目に映るものすべてがくっきりと鮮明に見える。ピンと張りつめた冷たい空気に自分も清浄されていくようだ。
いつまでも名残りは尽きぬが、小屋を後にする。
下るほどに隠れていく槍の穂先に寂しさを覚えながら、また来るよ!と、別れを告げる。
転ばぬように慎重に尾根を下り、富士見ベンチからは夢中で駆け下りる。
やはり昨日の登りで靴擦れができ、靴下まで血のシミが付いていた。第2ベンチでアイゼンを取り外すと多少痛みはましになり、一層スピードアップして登山口へと無事下山した。

朝日を浴びる燕岳 昨日より鮮明に見える
名残惜しく振り返りながら下山する 遠くに穂高連峰も望むことが出来る

初の積雪期単独登山は無事に終った。燕岳は積雪期初心者には是非お薦めしたい山だ。
憧れの雪山は、謙虚さと、少しばかりの勇気があれば、決して手の届かぬところではない。
そして、そこには山男達を魅了してやまない、この時期だけの世界が確かにあると思った。 
(報告者 :A)

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