日 時 平成19年8月27日(月)28日(火)
天 候 8/27 : 曇り
8/28 : 雨
人 数 二人
行 程 栂池P−(栂池パノラマウェイ)−栂池自然園−白馬乗鞍岳−白馬大池−白馬蓮華温泉ロッジ テント泊 <往復>
<メモ>
・蓮華温泉〜蓮華ノ森キャンプ場は約600m(10分程度)
・蓮華温泉からのバスは一日2本運行(2007/8/28現在)
・栂池パノラマウェイ運行状況
     http://www.tokyu-hakuba.co.jp/index.htm


夏休みをとって、久々に小泉氏との山行である。登りたい山はいくつもあったが、最近は温泉にはまっているし、岩場も歩きたい、ということで、唐松岳〜白馬岳〜蓮華温泉の縦走計画を立てた。
しかし、、、好天が続いたのはお盆明けまでで、明らかに天気は下り坂。しかも小泉氏は風邪気味である。 とにかく、縦走予定で前夜名古屋を出発した。
白馬八方に到着したのはすでに日付も変わっており、これからキャンプを楽しむには遅すぎる。手早くツーバーナーで食事をとることにした。
お月様が山の稜線を照らし、星も瞬いている。明日の天気はどうなのだろうか。

翌朝、八方ゴンドラの始発に間に合うように起きてみるが、やはり体調がすぐれぬようだ。今回の縦走コースはそれでなくてもかなりハードな行程で、しかも不帰ノ瞼を超えなければならない。
本人は最初諦めきれぬ様子だったが、稜線に怪しく漂う黒い雲を眺めて、”この体調で行ったら山をなめてるな” と、ルート変更することにした。
稜線歩きが無理ならせめて温泉でも、ということで、栂池自然園から白馬大池を経由し、蓮華温泉へ下るコースにする。今日一日は何とか天気も持ちそうである。
栂池高原まで車を走らせ、ゴンドラ駅駐車場へ車をとめる。平日とはいえ車の数は多かった。
栂池スキー場のゴンドラは乗車時間20分とかなり長い。スキー場の最終駅で降りると、次はロープーウェイに乗換えだ。雲が低く稜線は隠れていたが、所々雲の切れ間から見える山肌は壁のように高い。
ザックを背負っているのは私達だけで、殆んどは栂池自然園へ行く観光客ばかりだった。 さすがに標高1800m、下界の暑さが嘘のように冷気が心地よい。
ビジターセンターで軽くストレッチをしていざ出発。1泊分に荷物を減らしたとはいえ、テント泊の荷物は多い。いつもながら、小さな体に大きな荷物を背負った私の姿は可笑しいらしい。
湿地帯となっている天狗原 まるで箱庭のような天狗原を見下ろす 夏の終わりまで残る雪渓
天狗原までは歩きやすい緩い傾斜の登山道が続き、快調なペースで高度を上げていく。コースタイムより大分早く天狗原に到着する。
湿地帯に木道がかかり、天気が良ければ小蓮華岳から白馬岳まで素晴らしい展望が開ける別天地だ。
お花も豊富で、以前来た時には自生のアヤメが咲いていたのが印象的だった。
途中、風吹大池への分岐があり、明日はこのルートを戻ってくる予定でいる。
木道を渡りきると、ゴロゴロした石の歩きにくい登山道が始まる。歩幅が合わず自然と息が切れるが、みるみるうちに天狗原が小さくなっていき、まるで箱庭のように見える。
やがて本格的な溶岩帯に入り、足を踏み外さないように慎重に岩を渡り歩く。
天狗原から見えていた雪渓を通過すれば、乗鞍岳まであと少しだ。足元の可愛いリンドウに気持も和む。
ハイマツ帯のだだっ広い丘のような山頂は、立派なケルンのお陰で一応ピークの風格を保っている。
白馬乗鞍岳山頂のケルン 白馬稜線が望めるはず・・・
相変わらずどんよりした天気だが、風はなく気温も丁度よい。
大岩にどっかり腰を下ろして昼食をとった。静かに目を閉じていると、聞こえるのは風の音と小鳥のさえずりだけだ。この静けさは山でしか味わえない。
途中で追い抜いた団体の声にハッとなり、慌てて腰を上げる。
乗鞍岳の丘を越えると白馬大池が現われ、こんなに近くにあったのかと驚く。白馬大池山荘の赤い屋根も見えるが、意外にもここから時間がかかるのだ。
白馬大池の向こうに見える小蓮華岳のなだらかな稜線が美しく、グリーンの水を湛える大池と山の緑のコントラストも良い。歩を進めるにしたがって池の形と山の表情も変わり、何度もシャッターを切った。
ハイシーズンには賑わう白馬大池山荘もさすがに夏の終わりは静かなものだ。小屋の前を素通りし、数十メートルほど先に分岐路がある。蓮華温泉方面へ右へ進路をとる。
山荘の赤い屋根がなかなか近づかない
並並を水を湛える白馬大池と小蓮華岳稜線  小蓮華岳への登山路 穂をなびかせるチングルマが圧巻
このあたりは素晴らしいお花畑で、すでに穂になったチングルマが一面に広がり、遠くを見るとまるでピンクのお花が咲いているようだった。
この分岐から北は新潟県となり、私にとっても未知の山域となる。山の斜面をトラバース気味に緩やかに下る。左手に見える谷は、その向こうにある黒部峡谷のそれと対照的に、広く浅い谷になっていて、見慣れない山容に少しばかり動揺する。
強風と雪によって奇妙な枝ぶりを見せるカラマツの一帯が”天狗の庭”。まさに天狗が休憩するに相応しい雰囲気だ。正面にはたおやかな稜線の雪倉岳がどっしりと構え、目まぐるしく流れる雲で、その山並みが見え隠れしている。
さらに下り、尾根を回り込むと、遠くに赤い屋根が見えた。位置取りからして蓮華ノ森キャンプ場と思われる。まるでミニチュア模型をみているようだ。地図に印された歩行タイムは1時間とあったが、歩けど歩けど、近づいて来ない。歩きやすい登山道だが、建物が見えているだけに”まだ着かないの〜?”と少々フテ気味になる。
夏の終わりの風物詩 チングルマの穂 天狗の庭より雪倉岳を望む
黄金ノ湯の案内板を過ぎ、10分ほどで小屋の裏手に出た。白馬蓮華温泉ロッジは赤い屋根の立派な建物2棟からなり、それは山小屋の域を脱している。それもそのはず、小屋の向かいには大駐車場があり、ここまで道路が通っているのだから。
小屋の前のベンチに腰をおろし、まずは無事に到着した安堵感に浸る。心配だった小泉氏の体調も何とか持ちこたえているようだった。
売店のビールで乾杯し、さっそくお楽しみの野天風呂巡りだ!
赤い屋根の建物がミニチュアのよう 蓮華温泉の源泉地獄 噴煙も見えた 山小屋の域を脱している白馬温泉ロッジ
登山道まで一旦戻り、階段状になっている道を直進する。荷物が軽くなったことと、早く温泉に浸かりたい気持が強く、駆け足で登っていく。すると唐突に最初の温泉、”三国一ノ湯”の湯船がまるでお湯貯め桶のようにポツリとあった。ちょうど家庭の湯船ほどの大きさだ。
お湯は弱く白濁していて、臭いはあまりしない。本当に登山道の真横なので、人が多いときは勇気がいる。
さっそく浸かってみると、底に溜まった湯の華が舞い、一層白濁して温泉らしくなった。飲んでみると酸っぱく、少し苦い。大きな湯船もよいが、このくらいの小さな湯船は実に落着いて好きだ。ヌル湯が気持ちよく、いつまでも入っていたくなった。
三国一ノ湯 小泉氏一番のお気に入り ヌル湯が気持ちよい 荒々しい源泉地獄が開ける 
さらに登山道を登っていくと、源泉地獄が開け、硫黄の香りが漂ってくる。小高い丘を登ると”仙気ノ湯”だ。こちらは数名先客が居たため、さらに斜面を登って、雑誌などによく登場する”薬師の湯”に先回り。一番高台にあるため眺望がよい。ここは岩で組まれた一畳程の湯船だ。写真で見て白濁湯かと思っていたが、湯船の底が見えるくらい透明で、深いグリーンのお湯だった。この色は、お湯の色というより、緑に染まった岩のせいかもしれない。熱めのお湯で、やはり酸っぱ苦い。天気がよければ雪倉岳、朝日岳が正面に望めるだろう。この辺りは谷が深くないだけに、非常に開放的な雰囲気である。
一番高台にある薬師の湯 苔色の透明なお湯だった ロケーション的に気に入った黄金の湯 ツルツルの、、、”底”
仙気ノ湯は人気が高いようで、今度は別の方が入浴中だった。 それではと、次の野天風呂に足を伸ばす。 源泉からかなり南に下ると、踊り場風になった場所に”黄金の湯”が登場する。少し上部に”黄金の湯跡”があったため、枯渇して新たな源泉を引いているのだろうか。
こちらは木で作られた正方形の湯船で、三方が木々で囲まれ、開放感はそれほどないが、森の中にしっくりと収まっていてロケーションとしては一番気に入った場所だ。ここはツルツル度200%で、それはお湯のことではなく、湯船の床。まるでビロードのような苔が一面に張り付いていて、もしも勢い良く入浴したものなら、ツルっと滑って溺れる事間違いなし。私は解っていても何度も滑りそうになった。 しかし、そのせいか、若干お湯自体もツルっと感があり気持ちよく、味は苔味だった。 板場で休憩しながら、ここに一番長く居座った。
結局、仙気ノ湯は夜までおあずけとして、ロッジに戻り、今宵のビールを仕入れてテント場へ移動する。
ロッジからテント場までは約600m、10分ほどの距離だ。
登山道から見えていた通り、管理等、炊事場2箇所、トイレ2箇所の設備が整った立派な草地のキャンプ場だった。この設備で一人300円はかなり安い。
落着いた雰囲気を醸し出す年配のご夫婦と、10名程の学生の集団2パーティがすでに場所を陣取り、食事の支度をしている。
私達は一番奥の草地にテントを張った。
野外で食事をするには丁度よい気温で、所々に設置された木のテーブルで宴の始まり。
献立はサンマの蒲焼卵とじ丼とカレー。今回は軽量化重視でお米もカレーもドライ製品だ。サイト内を流れる小川でビールを冷やし、乾杯! 不安な出発だったが、とにかく此処まで来られて良かった。
ほろ酔い気分になったころ、日も暮れてお月様が顔を出した。
しばしベンチに横になり静けさと森の香りと澄んだ空気に気持も酔いしれる。
草地の素敵なキャンプサイト まわりはシラビソの森
気温が一気に下がり、肌寒くなったので、再び野天風呂に出かけることにした。ここから仙気ノ湯までは約20分の道のりである。
自慢のフェニックスライトの明るさを確かめながら砂利道を急いだ。
小屋の消灯前に入浴する人も居るかと思ったが、来ている人は居ないようだ。
4箇所の野天風呂の中で、一番広い湯船の仙気ノ湯は、源泉の湧き出している地獄に一番近く、噴気の臭いや音が演出効果ともなり、野趣溢れる感じである。
ここは唯一加水用のホースがあり、自由に加水できるようになっていた。とはいうものの、配管から流れる源泉は触れられないほどの熱さではない。酸味はあるが、苦味は感じなかった。
人気のない闇の中の入浴は、集中できて好きだ。
変な話だが、山登りや、ジョギングが好きな共通点は、自分だけ時間があり、空想の世界が広がることにある。
割とくだらない事をあれこれ空想してほくそ笑んだりするのは、我ながら気持ち悪いと思うが、なぜか好きな時間。
勝手な分析だが、私の場合心拍数が110くらいに達すると、そういう気分になり、それ以上になるともう空想どころではなくなる。
最近、自分の温泉好きは、それと同じ理由からくるのではないかと思う。何といっても入浴は、歩くよりも心臓にかかる負担は大きい。
しばらくお湯に浸かった後、縁に腰掛けてボーッとする時間は至福の時だ。

深夜、大粒の雨が激しく降りだした。稜線のキャンプであれば、風をともなって不安なテント泊となるが、ここは高原のような場所で安心。明け方も降り続き、しばらくテントの中に停滞。
森の中の雨もなかなか良いものだ。木々を打つ雨音は何故か心落着く。雨が自然の恵みであることを、無意識のうちに感じるのかもしれない。
テントを撤収するころ、北の空が明るくなってきた。
さぁ、麓に下りたらどこの温泉に入ろうか。 次なる休息地を求めて、再び白馬大池へと出発した。(報告者:A)

ナイフショップ:アウトドアクラブ