日 時 平成19年8月11日(土)12日(日)13日(月)
天 候 晴れ
人 数 二人
行 程 8/11 宇奈月-(トロッコ列車)-欅平-阿曽原温泉 泊
8/12 阿曽原温泉-仙人温泉-阿曽原温泉 泊
8/13 阿曽原温泉-欅平-祖母谷温泉-欅平-(トロッコ列車)-宇奈月
2007年登山道情報!
阿曽原温泉〜仙人温泉のルートが変わりました
詳細は山行レポートをご覧下さい

以前から行きたいと思っていた黒部峡谷。過去に剣岳から黒部峡谷へ下るルートに挑戦したが、初っ端から雨・嵐に見舞われて敢え無く撤退、ずっとおあずけになっていた。
名古屋から深夜車を飛ばし宇奈月に着いたのは2:00過ぎだった。下界よりは若干涼しく感じるものの、シュラフをかぶる気にならずそのまま車内で仮眠をとった。
トロッコの始発は7:34。お盆とあって始発から結構な乗客数だが、ザックを背負った登山者はあまり居ないようだ。 初めてのトロッコ列車は意外にもトンネルが多く、深い峡谷も簡単に拝めない。総長20kの距離を1時間20分かかって欅平に到着した。
すでに太陽は空高く、雲一つない最高の登山日和である。
富山電鉄宇奈月駅 立派な駅舎 トロッコ列車の始発駅 宇奈月駅
駅のホームを戻るようにして歩き、駅舎を出ると左手に登山口がある。
ここから水平歩道までは”つづら坂”と呼ばれる高低差約300mの急登である。ストレッチも兼ねてゆっくりと登りはじめる。階段状にジグザクに高度を上げていくと、あっという間に欅平駅が小さくなっていった。
コースタイム通り30分ほどで欅平に着き、尾根に取り付くと、右下方に小黒部谷が見える。こちらもかなり深い渓谷になっていた。鉄塔を越えるといよいよ水平歩道の始まりだ。
深い渓谷の断崖絶壁にくりぬかれた登山道は、ものの本を読んでも、ガイドブックの写真を見ても、どれも恐ろしい描写、画像ばかりで、かなりビビっていたのだが、よく整備された快適な登山道だ。
左手には奥鐘釣山の岩壁が迫り、その遥か向こうには白馬稜線を望むことが出来る。
コンスタントに短い休憩を挟みながら快調に山奥へと進んでいく。
気温もみるみる上がり汗がとめどなく流れる。
奥釣鐘山西壁の正面にあたる志合谷に近づくと、谷の向こうに延々と続く水平歩道が見えた。
荒々しい山肌に線を引いたような登山道に感動を覚える。この断崖に一本の道筋をつけるのにどれだけの労力と犠牲 があったことか。命を賭して切り開いたこの道も、今や登山客のトレッキングルートであることを思うと、非常に感慨深いものがあった。
志合谷は残雪で阻まれ、その中をくの字型に掘られたトンネルを通る。
トンネル内は驚くほどの冷気で、まさしく天然クーラーだ。足元には湧き水が流れているが、側溝が作ってあり殆ど足元が濡れることはなかった。

 志合谷を越えて歩を進めると、40分ほどで水平歩道の写真によく見る”大太鼓”を通過する。くり抜かれた岩壁が頭上に迫り、足元がスッパリ切れ落ちた狭い登山道を緊張しながら歩く。
南斜面に出ると容赦なく太陽が照り付けてくる。黙々と歩き折尾谷の堰堤のトンネルを越えて昼食をとった。空を見上げると自分が深い谷間に居ることを実感する。
折尾谷から少し歩くと落差30mほどの立派な滝が現われ、水しぶきが光に照らされて涼しげだ。
谷の向こうに見える水平歩道
高低差のない水平歩行とはいえ、気温はますます上がり体力の消耗を感じ始めると、遠くに阿曽原小屋が見えた。平屋の学校のような建物で思いのほか大きい。水平歩行を外れ一旦渓谷に下り阿曽原谷を回りこむと、阿曽原小屋のテント場に到着した。
折尾谷の一枚岩
水平歩道のクライマックス 大太鼓 オリオ滝

山の斜面に立つ阿曽原小屋
お盆の真っ最中の山小屋といえば、大部屋に寿司詰め状態で泊まるものだと思っていたが、ここ黒部下流域のハイシーズンは秋とのこと。幸い5組程度の静かな山小屋ライフとなった。
受付で翌日の行程を尋ねられ、仙人温泉〜欅平下山と告げると、何と今年から仙人温泉への登山道が変更となり、往路で5時間かかるとのこと。それでは仙人温泉往復だけでも9時間近くかかってしまい、とても欅平までは戻れない。三日間という限定された休みの中計画していた行程のため、打撃は大きかったが致し方ない。
それにしても、これまで2時間半程度のルートが倍近くかかってしまうとは信じがたい。詳しいルートを教えてもらうと、仙人ダムから仙人谷の南尾根を約700m登りつめるルートとなっていた。これまでの登山道は雪渓の通過が数箇所あり、登山地図にも”危険”のマークが印されていたが、近年雪渓の状態が悪く、益々通過に困難を極めていたとのことだった。
コンクリートで固められた簡素な作りの湯船



明朝は夜明け前に出発することとし、阿曽原に戻ってきた時点でその先の判断することにしたが、いくら楽な水平歩行とはいえ、疲れた体で歩き、誤って転落する危険もあり、基本的には翌日も阿曽原泊まりの心づもりをした。
さて、楽しみの温泉だ。男女1時間毎の交代制となっているが、登山者も少ないため、小屋の女将さんがアバウトに時間を区切っていた。テント場から5分ほど下ったところに簡素な湯船がポツンと現われる。その向こうにはトンネルが口をあけ、そこから湯煙がモクモクと噴出していた。トンネルの入口が簡易的な脱衣所となっているが、トンネル内はサウナのよう。
透明な単純泉だが、5時間の歩行の末に辿りついて浸かるお湯は格別で、まだ陽も高く
正面に見える山の緑が眩しく光っていて気持が良い。 確かに紅葉シーズンは景色、気温ともに最高の環境だろう。
夕食の後、再びお湯を楽しみ、翌日の山行に控えて早めに就寝した。

翌朝は4時半出発。まだ空は暗い。山歩きの基本は早発ち早着きだが、朝にめっぽう弱い私は守れたためしがない。今回は同行者のお陰で予定どおり小屋を出発することが出来た。小屋から15分ほど登り、仙人ダム方面へ水平歩道を歩く。ライト無しで歩けるようになった頃、仙人ダムへの下り道へ差し掛かった。
登山道を下りきると関電の寮と宿舎が現われ、このような山奥に立派な建物が存在することに違和感を覚えると同時に、労働者に畏敬の念を抱く。
建物の裏手に回ると、登山道はなくなり、トンネル内を通過することになる。中はサウナのように熱気につつまれ、高熱隧道の一面に触れた気がして神妙な気持になった。
関電の施設内を通りダムのほとりに到着する。
このダムを対岸へ渡れば下ノ廊下への道へとなり、仙人温泉へはそのまま川沿いに歩き、仙人谷へ入っていく。取り付きから一枚岩に掛かる長いハシゴが現われ、これからの急登を予感させるようだった。
しばらく進み仙人谷を渉ると尾根に向けてジグザグの登山道が始まる。青空が広がり今日も晴天だ。
小気味良く高度を上げていくと、背後に後立山連峰の稜線が見えだした。遠くに白馬岳、その手前に杓子岳のどっしりした姿が、正面には唐松岳不帰のキレットが聳えている。
登山道は昨年より開かれたそうだが、急峻な尾根にはことごとくロープやクサリが張られ、整備のご苦労が伺える。 途中、ネパール式に旗が飾られた大木を過ぎると少し傾斜が緩まり、痩せ尾根のアップダウンンを繰返すと1692mピークに達する。5時間の行程を覚悟していただけに思いのほか楽に到着した感じがした。
1692m手前の尾根道を行く

1692mピークからは山肌をトラバース気味に緩やかに下降すると、緑の山合いにポツリと仙人温泉の小屋が見えた。以前の登山路であれば、仙人温泉の源泉には”わざわざ”立ち寄らなければならないところだが、新ルートはちょうど源泉を通過するように道が付けられている。源泉が流れる沢は岩が赤くそまり、仄かな硫黄臭がたちこめる。
仙人温泉小屋はご主人が一人で切り盛りしている本当に小さな山小屋だ。入浴料を払って早々に小屋の奥の野天風呂へと急ぐ。
大きな岩の突き出た下に程よい大きさの湯船からは、後立山連峰の絶景が広がる。これはすごい!私が体験した山の出湯の中ではダントツの眺めの良さだった。以前はこの湯船の前が登山路になっていたため、入浴には勇気がいるようだったが、今では湯船の前に簡易的な脱衣所兼休憩所のような場所が設けてあり比較的のんびりお湯に浸かれるようだった。
この野天風呂から少し離れた小屋の裏手に女性専用の野天風呂もある。こちらは簡単な屋根付きのお風呂で、岩をくり抜いて作った湯船は大きさも丁度よく、眺望はいくぶん劣るがとても落着いた雰囲気だ。
黒部山麓にポツリと存在する仙人温泉はまさに秘湯中の秘湯。その存在そのものに感動してしまう。
このような絶景の野天風呂に浸かれば、開放的な気持ちになるように思うが、静かにお湯に使っていると、遥か昔からコンコンと湧き続ける自然の力や、このお湯を求めて山を越えてきた先人達に想いを馳せて、何ともいえぬ粛々とした気持ちになるのが不思議だ。
ひとしきりお湯を楽しんで、帰り支度を始める。
また来る機会があるだろか、次も好天に恵まれるだろうか、まさに山は一期一会だ。しっかりと記憶の底に焼き付けて小屋を後にする。
復路は、急斜面をロープを上手に利用して猛烈な勢いで下山していく同行者を必死で追いかけ、山の斜面を滑り降りたような感覚だったが、それでもしっかり時間はかかった。
絶景を望む仙人温泉 まさに秘湯中の秘湯
気温はうなぎ登りに上がり、暑さに耐え切れず同行者は仙人谷に飛び込む。
下方には大きく湾曲したエメラルドグリーンの黒部川がキラキラと光っていて綺麗だ。
お昼前に阿曽原温泉に到着したが、さらに数時間の歩行をする気になれず、今宵も阿曽原温泉に宿泊することにする。
たっぷりある時間も、温泉に浸かったり、山談議、温泉談議をしているうちにあっという間に過ぎていってしまった。

翌日は欅平周辺、トロッコ沿いの温泉巡りのために、阿曽原温泉を5時に出発する。水平歩道は油断が禁物と自分に言い聞かせ、慎重に足を運び、ちょうど欅平に始発の列車が到着するのと同じく、私達も欅平へと戻ってきた。
無事に下山した安堵感と山から離れてしまう寂しさが入り混じる。
これだけの好天に恵まれながら山のピークを踏まない山行は珍しいが、それだけに、山の懐に入り、その中を自分の足で歩くということが、自分にとって何よりの楽しみであることを実感した。
山の中腹にポツリと存在する仙人温泉小屋
また、今回の山行は後日読んだ吉村昭著”高熱隧道”によって、より印象深いものとなり、充実感溢れる山旅だった。
でも、やっぱり次に来るとすれば、剣岳のピークを踏み、真砂沢、仙人池を下ってくるだろうなぁ。 (報告者:A)
                         ※今回は仙人温泉でデジカメのバッテリーが切れてしまい、写真が撮れなかったのが残念

<その後の温泉めぐり> 
@ 欅平 猿飛山荘
欅平駅の川沿いにある山小屋で、当初2日目の宿泊予定だった。川沿いに男女別の露天風呂があり、かすかな硫黄臭がした。
下山後の石鹸付きお風呂とあって、気分的にさっぱりと気持がよかった。

A  祖母谷温泉 渓流の野湯
唐松岳や白馬岳への登山口ともなる祖母谷の渓流沿いに源泉が湧出していた。源泉は激熱で川と混ぜ合わせて入ることになる。
岩の間や砂地から湧き出ているので気を抜くと熱い湯が体に障り飛び上がる。数年前に行った湯俣温泉を思い出した。
硫黄の香りがするものの、お湯は透明で(新鮮すぎて濁らない)、真っ白な岩に流れる薄いブルーの湯の川がとても綺麗だった。

B  祖母谷温泉 祖母谷小屋
透明のお湯に湯の花がたくさん浮いている。味はあまりなく、硫黄臭も河原の源泉より少なかった。白馬岳を目指す登山者はこのお湯に浸かって翌日からの長い長い登山への鋭気を養うのであろう。祖母谷から見上げる稜線ははるか彼方で気が遠くなるほどだった。

C  名剣温泉
日本秘湯の会に加入する宿で、以前から行きたいと思っていた。渓流沿いに露天風呂がせり出ていて、正面の岩壁の緑を眺めながらの入浴は気持がよい。よく渓流の堰堤を望む写真が載っているが、それよりもずっとよい景観だと思った。祖母谷からの引き湯とのことだが、香りも色も硫黄成分を感じて湯の華も豊富だった。入浴した瞬間足がビリビリと痺れたのも不思議だった。

D  鐘釣温泉 渓流沿いの野湯
鐘釣駅を降りて、南に10分ほど歩くと、河原の数箇所に露天風呂が出来ている。大勢の観光客で溢れていたが、何故か入浴者は少なかった。
まずは、ちょうど線路の真下にある洞窟風の露天風呂に行ってみる。くり抜かれた岩の中は砂地になっていて、そこからどんどんお湯が湧出している。温泉通が絶賛する”足元湧出温泉”だ。地中から溢れ出したばかり源泉を体感するわけである。
お湯の質云々よりも、この場所に丁度良い温度で湧き出ることが奇跡的であり、そのこと自体に感動してしまう。
河原の側にある露天風呂の方は、岩の裂け目からこれまた大量に源泉が湧いていて、水面が盛り上がってしまうほどだ。
時期的にアブが大発生しており、追い払うに大忙しでゆっくりとは楽しめなかったのが残念だった。

E  黒薙温泉
黒薙駅から15分ほど山に入ると、鄙びた一軒宿に到着する。ここも以前から気になっていた宿だ。
やはり渓流沿いに大きな露天風呂があり、野趣溢れる景観となっている。こちらもアブが大発生。
少し上流にある女性専用の露天風呂はかろうじてアブの被害なく入ることが出来た。硫黄臭もあり、たまご味も感じて温泉らしい。
ここもなぜか足が痺れた。景観もとてもよく、また、今回最後の温泉かと思うと、名残惜しくゆっくりとしたかったが、トロッコ列車の最終の時間も気になり、最後は内湯にザブンと浸かって宿を後にした。

ナイフショップ:アウトドアクラブ