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日 時 平成21年7月12日(日)〜14日(火)
天 候 13日 曇り⇒雨(強風) 14日 晴れ
人 数 二人
行 程 舟山十字路〜西岳〜権現岳〜キレット小屋 泊
キレット小屋〜赤岳〜阿弥陀岳〜御小屋山〜舟山十字路
<メモ>
・広河原〜千枚岩間の巻き道入り口は見つけにくく悪路
・西岳への分岐は千枚岩横を真東へ登る
 (付近に南へ続く踏み跡、赤布あり)
・御小屋尾根は阿弥陀岳直下のガレ場に注意
・舟山十字路、美濃戸への分岐は明瞭、導標あり


中岳から赤岳、横岳、硫黄岳の稜線を望む 八ヶ岳独特の緑と赤土のコントラストが美しい
少し早い夏休みをとって久しぶりにパートナーとの山登りである。
高速道路一律1000円の恩恵を受けようと日曜日の夜に出発。舟山十字路に着いたのは22:30だった。かろうじて星も見えるが、遠くで雷の音がこだましている。
少しでも距離を稼ぎたい気持ちと、夜行登山への冒険心もあって、晩のうちに山に入ることにする。
フェニックスライトのなんと明るいこと! しかし足元は明瞭でも、周りは真っ黒。私たちがキャッチできる情報は限りなくゼロに近いのだ。この夜行登山の難しさをまざまざと感じるのはもう少し先・・・
林道を20分程進むと沢を二つ渡り「広河原」らしき場所に出た。ここで林道を離れて尾根を越える巻き道へと入るはずだが、その分岐がわからない。林道沿いに歩くと、沢がありテントサイトのような平地に行き着いた。文字が剥げたT字の導標が立てられ、近くには大岩が点在している。
「西岳の分岐か?」と思うが、山を巻いたイメージはないし、どう考えても到着が早すぎる。しかし人の心とはなんと都合がよいものか、点在している大岩が地図の示す「千枚岩」のように思え、古い道標を「西岳分岐の標識」だと信じ、水場のマークがこの沢を示すのだと思い込む。 人の(私の)心というのは、今ある現状を肯定するように動くのだ、ということを実感した。
とにもかくにも、ここは野営するに最適の場所であり、私たちはテントを張り、これからの山歩きに向けてささやかな祝杯をあげた。

ギンリョウソウ ヤマオダマキ ハクサンシャクナゲ
翌朝は青空も見られ一安心。気温も高く寒くないのが良い。テントを撤収し、早速辺りの状況を確認するために裏手の踏み跡を辿ると、朽ち果てた小屋が現れ、「旭小屋」とあった。
なんと!広河原から立場川を東に進んでしまっている。 旭小屋は積雪期の非難小屋の役目を果たし、ここから阿弥陀岳南稜に取り付くため、赤布や踏み跡もしっかりあるのだ。林道を広河原まで戻り巻き道を探し出す。明るい日中でも入り口は見つけにくかった。
倒木の多い荒れた道が続き、常に斜面とトラバースするよう道がついているので歩きにくい。ギンリョウソウはあまり見かけない植物だが、ここはこの森一帯が彼らの住処のようで、そのキノコとも植物とも思えぬ姿がアチコチ土から出ている様は少々気味が悪いものがあった。
西岳分岐の道標は立派でこれを間違える人はいないだろう。しかし、分岐の先でまたしても紛らわしい赤布に惑わされ別の踏み後を辿ってしまい、林道へと飛び出てしまう。足取り重く引き返すと千枚岩の横に踏み跡があり、その先に”青布”が垂れ下がっていた。


気を取り直して西岳への登りが始まった。しばらくは緑の美しいブナ林を歩き、足元のヤマオダマキに心が和む。広い尾根は歩きやすいがいつまでもかったるい斜面で、高度が稼げず精神的に辛い。2度のルート違いで疲れたのか、パートナーの足取りは重く、今日の行程の三分の一も歩いていない段階で冗談まじりに弱音を吐いていた。
タカネバラ ツマトリソウ ゴゼンタチバナ
2000mを超えると尾根は狭くなり登りもきつくなる。雲行きは怪しくなり、周りの樹木がワサワサと揺れ始めた。西岳に着いた時には、すっかり霧の中に包まれ今にも雨が落ちそうだ。ここから青年小屋までは起伏のない尾根伝いだが、その先は稜線歩きだ。パートナーの体調も心配な上に風の中の稜線歩きが不安になる。
そんな不安をよそに西岳〜青年小屋の尾根は実に素晴らしい森が広がっている。北八ヶ岳を想わせる苔むしたシラビソの森は霧の中に包まれて幻想的な空間を生み出している。 雨の雫をいっぱいに含んだ瑞々しい苔の絨毯には森の妖精が隠れていそうだ。
尾根歩きもほとほと疲れてくると水量豊富な乙女の水。ここまでこれば青年小屋は目前である。
青年小屋はこの天候とあってか登山者は誰一人おらず閑散としたものだ。
悪天時は休憩もままならないのが辛いところ。私たちはヤッケを着込み一口のパンを頬張ると稜線に向けて出発した。
雨の中のシラビソの森
水量豊富な乙女の水 青年小屋 強風の中で・・・ 権現岳
緩やかな傾斜を30分ほど登ると小ピークに出る。道標には「のろし場」と書かれ、権現岳へはクの字に登山道を折れて少し下降し、再び痩せた尾根を登り始める。
ボンヤリと前方に険しい岩場が見られ、気づけば足元は岩稜帯となっており、片方の斜面は深く切れ落ちているようだ。目指す”ギボシ”もわからずただ登山道を辿るしかない。
バテ気味だったパートナーは去年歩いたルート(編笠岳から入山)に入り精神的に楽になったのか、しっかりと先を歩いていく。小さなピークをいくつか超えてイワベンケイのお花畑を過ぎると、靄の中から唐突に権現小屋が現れた。
簡素な小屋の中には炬燵が置かれ、小屋番が「今日は風が強くていけませんねぇ」とボヤいていた。
小屋から権現岳山頂まではわずかだが、もろに強風を受けて前進もままならない。権現岳は大きな岩をよじ登った狭い山頂である。とりあえず山頂を踏んでみたが、風にあおられないようにするのが精一杯で特に登頂の実感も感慨もなく先を急いだ。
リニューアルしたキレット小屋
ここからキレット小屋まで200mほど高度を下げる。
うわさに聞いていた権現岳直下の長い梯子は、最初から曲がっているのか長年の風雪によりそうなったのか、まるでジェットコースターの線路のように微妙な傾斜で捻じ曲がっていた。 吹き付ける風と雨の中、ひたすら尾根を下りコースタイム通りにキレット小屋に到着。時間的にはまだ早いが、この天候で赤岳への岩場を登るのは危険だし、あまり意味もないでの、ここで一晩を過ごすことにする。
悩むところはテント泊にするか小屋泊にするか、である。ここまでテントを担いできたもののこの天候。素泊まりでも食堂を自由に使って自炊してもよい、といわれあっさりと小屋泊を選んだ。 ※小屋によっては室内での自炊を禁止している場合もあり、悪天候の場合は却ってテントの方が便利なこともある。
さて、これから長い長い宴の始まりである。
荒れ狂う風音で窓ガラスがミシミシと鳴り続け、たちまち山の夜は更けていった。

明朝、窓の外を覗くと東の空に黒々と怪しい岩峰群が暁を背負って現われた。
赤岳稜線の大天狗岩の岩峰だ。まるで悪魔の城のようである。
キレット小屋に咲く白いコマクサ
キレット小屋から影絵のような大天狗岩を望む 八ヶ岳から望む富士山は大きい!!
キレット小屋のテント場より赤岳 まるで悪魔の城のようだ キレット小屋横のコマクサ群生地  多すぎて少々興醒め?
食事はとらずに早々にキレット小屋を出発した。赤岳への取り付きは岩場を縫うように垂直に登っているように見える。どんな登山路が待っているのが楽しみだ。
15分ほど緩やかな傾斜を登り小さなピークに出る。あっという間に赤岳直下の岩場取り付きに入るが、ここからが長かった。
ルンゼ状の不安定な岩場を登ると、小天狗と大天狗が突き出る天狗尾根が右手に伸びる。高度感のある痩せ尾根を梯子と鎖を使って超えていく。このルートで一番スリリングで楽しい場所だろう。ドキドキしながら岩場を越えていくあの感覚は、登山の醍醐味の一つである。
ピークを超えてもまた新たなピークが現われてなかなか赤岳山頂に手が届かない。
ヘリの騒がしい音が急に近づいたと思ったら、赤岳山頂小屋が姿を現した。狭い岩峰にへばりつくように建っている。
最後の岩場を登りきるとようやく赤岳山頂にたどり着いた。
キレットから眺める権現岳 王冠のよう! 赤岳直下の取り付き 岩屑の山だ
ルンゼ状の岩場をぐんぐん登る 天を突く大天狗岩を背に梯子に取り付く スッパリ切れ落ちた痩せ尾根をゆく

難所を越えてからもさらにピークの連続
 ↑ 夏休み前の荷揚げに大忙し
 ← 赤岳山頂にて
北には横岳硫黄岳の稜線が伸び、西はこの赤岳と兄弟分の阿弥陀岳、南には美しい甲斐駒、ピラミッド状の北岳など南アルプスが遮っている。
そして甲府の町並みの向こうには富士山が鎮座する。八ヶ岳から眺める富士山は本当に大きくそして高い。遮るものは何もなく、大きく広がる裾野の曲線がとても美しい。
しばし山頂で展望を楽しんだあと、小屋に入ってブランチをとった。

山頂でのひと時はそれまでの過程によって特別な想いがするが、人が思うほど達成感を得られないのは私だけだろうか。
それよりもピークを踏んだ後は、旅の終わりが近づいてくるような気がしていつも寂しい気持ちになる。
山の魅力は、達成感や眺望の素晴らしさが当然のようにあげられるが、私が山に登るわけはもっともっと別のところにあるように思う。
ハクサンイチゲ イワベンケイ
↑赤岳山頂より横岳稜線を望む  →兄弟のような阿弥陀岳
チョウノスケソウ ミヤマオダマキ
阿弥陀岳へは赤岳山頂直下のガレ場をずり落ちながら急降下し、途中の文三郎尾根の分岐を直進して、鞍部まで高度を下げる。天候が良ければ目指す先は真正面なので全く問題はないが、視界が悪いとウッカリ行者小屋へ下りてしまうかもしれない。
中岳へ登り返すと、赤岳〜横岳〜硫黄岳の展望が素晴らしく、まるで大きな鷲が羽を広げて空を覆いつくすようである。北アルプスの灰色の稜線と違って、赤土と緑のハイマツ帯の彩りが美しく、どことなくウェスタン風な雰囲気が漂うのが八ヶ岳の特徴だろう。
中岳を下り阿弥陀岳との鞍部に立つと、登山道が山頂に向かって一本の線のようについている。足場のしっかりした岩場を快調に登りぐんぐんと高度を上げる。
岩にへばりつくチョウノスケソウ 小さな体で踏ん張るイワヒバリ 赤岳をバックに阿弥陀岳を登る
斜度のある岩場を登っていると足元を見ずともハクサンイチゲやキンポウゲが自然に視界に入ってくる。美しく逞しい高山植物に導かれるように阿弥陀岳山頂に辿りついた。
ここは南八ヶ岳の全貌を望むことができる素晴らしいポイント。西岳から青年小屋への尾根、権現岳、キレットを越えて赤岳・・・・自分が歩いたルートを目で辿るのは楽しいものだ。その度にいつもいつも一歩一歩の大きさを実感し深い感動に浸るのである。
達成感とか満足感とは違う・・・、ただひたすらにこの山に身を置くこと、この山の土や岩に触れられることに喜びを感じて胸がいっぱいになるのである。
シコタンソウ
角度によって様々な表情を見せる赤岳 キバナシャクナゲ
ビューポイント 阿弥陀岳山頂 阿弥陀岳 摩利支天を越え御小屋尾根を下る
阿弥陀岳からは人の少ない御小屋尾根を下る。摩利支天直下はザレた岩屑を慎重に下り(登山者の往来には注意が必要)、なだらかな尾根に取り付くと、とたんに気温が高くなりアブが体中にまとわりつく。
御小屋山で美濃戸口との分岐に出るが、きちんと道標に印されているので、迷うことはない。
後はアブに噛み付かれないように一目散に舟山十字路へ下るだけだ。
舟山十字路手前の林道 舟山十字路のゲート(この先にPあり)
下山する時には寂しかった私の心は、船山十字路を目前に、すでに奥蓼科渋御殿湯に向けて浮かれ弾んでいた。 (報告者:A)