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日 時 平成22年5月2日(日)・3日(月・祝)
天 候 両日とも晴れ
人 数 単独
行 程 三股〜蝶ヶ岳 ヒュッテ泊
蝶ヶ岳〜常念岳〜一の沢
<メモ>
 ・穂高駅⇒三股 一の沢⇒穂高 共にタクシー4500円程度
 ・往路;まめうち平よりアイゼン装着 
  復路:笠原あたりでアイゼン撤収
 ・山中、携帯電話不通
 ・稜線上の積雪は例年並みとのこと。95%は雪面を歩く。
 ・常念岳北斜面はフラットな雪斜面。
  南斜面は岩と雪のミックス



今年の春山はどこに登ろうか。早く銀嶺の北アルプスのそばに行きたくてたまらなくなる。今年はどの山も積雪量が多いようで、計画も慎重になる。 楽しい準備期間を経て結果的に蝶ヶ岳〜常念岳縦走に落ち着いた。いざ!頂きへ!
昨年のGWと同じ特急しなのに乗ったが、今年は満席。やはり高速道路の渋滞をさけての選択なのだろうか?
大糸線も大変な混雑だったが穂高駅に降り立った”登山者”は私だけで、登山口までのタクシー相乗り乗車を期待していたが甘かった。
三股駐車場には30台ほどの車で埋まっており、昨日から多くの登山者が山に入っているのだろう。
早速荷物を整えて出発だ。
15分程林道を歩くと管理小屋が見える。この時期は管理人さんが常駐しており、登山届けを求められる。「ずいぶん、ゆっくりだね」とやや忠告めいた言葉をかけられ、「常念に行くなら小屋で十分情報を得るように」と指示された。
確かに私以外の登山者は見当たらず、遅い出発の自覚はあったが、過去に同じルートを3時間半程で辿っていたので、どんなにかかっても15時にはヒュッテに着けるとふんでいた。
登山道から常念岳を望む
登山道を少し歩くとすぐに雪混じりの道となる。「力水」で水を補充していると下山者が通りかかった。アイゼンはまめうち平より先の蝶沢あたりで装着するとよい、とのアドバイスを得た。本沢を離れ、ゆるやかな斜面をつめると尾根にとりつき急登が始まる。足元は完全に雪道となるが踏み跡が深くアイゼンをつけるまでもない。一箇所道を誤りロスするも順調に高度を稼ぐ。
木々の間から見える常念・前常念の稜線がだんだんと近くなってくると、まもなくまめうち平だ。
まめうち平手前の尾根で小休憩をとり、おにぎりを頬張って、アイゼンを装着する。足元は重いが滑らず快適だ。 
まめうち平を過ぎると、シラビソの静寂な森が広がる。
光を照り返す雪面と、木々の陰影とが鮮やかなコントラストをなしている。
雪面にくっきりと映るシラビソの影 蝶沢をトラバース 雪崩が怖い
静寂な森に小鳥の声だけが響き、しばらくこの空間を楽しむ。心が浄化されていくようだ。
蝶沢を越えるとのけぞるような樹林帯の斜面を一気に登り詰める。下山者が転げ落ちてくるのではないかと思うような斜面である。雪は腐っていてアイゼンも効かずズルズルと足をとられながら登っていくと、斜面を舐めるようなトラバース気味のルートとなり、ようやく樹林帯を抜けると再び稜線に向かって雪面を直登する。空はいつのまにかうす雲で覆われ、それに遮られた陽光が雪面にあたり、一面銀色に輝いていた。
銀色に輝く雪面 雪面をぐんぐん直登すると稜線が目線に
このあたりから一気に足が重くなり息遣いも荒くなる。久しぶりに感じるバテ。あの木まで頑張ろう、次はあの旗印まで・・・と亀のように進んでいく。
こんなに登山って辛いんだっけ?休んでいるとボンヤリして寝てしまいたくなるし、手袋をしていても指先が冷えて、指折りも満足に出来ない。
稜線はすぐそこなので不安感は全くなかったが、もう歩きたくないなぁ、と駄々っ子のように立ち尽くしては、目前の目標に向かって歩を進めた。
すると稜線の向こうにひょっこり槍ヶ岳の穂先が顔を出した。

まるで悪戯坊主がおちょくって覗いているみたいで、妙に可笑しく噴出してしまった。
稜線に立つとその向こうは別世界だ。圧倒的な迫力でたちはだかる銀嶺の穂高・槍ヶ岳の峰々が目の前に広がる。
息があがっているせいか、私は胸が詰まって苦しくなった。 山の美しさに感動したんじゃない。 ずっとずっと想い焦がれた山。その山が、まるで私をずっと待っていてくれたかのようで思わず熱いものがこみ上げて来たのだ。

稜線のテント場は色とりどりのテントで埋め尽くされていて賑やか。風をもろに受けるが展望は最高である。
小屋は大勢の人で賑わっていたが、幸いにも一人分のお布団は確保できた。
食欲もなく具合も悪かったので、一旦小屋に入った私はもう動きたくなくなってろくに外に出でずに過ごす。
どうやら登山者の多くは常念に縦走するようで、小屋のスタッフも特に問題にはしていなかった。
常念岳まで歩けるだろうか?不安を抱えながら早々に寝床に入る。 夜中中、風の音がやまなかった。


翌朝、東の空には雲がかかっており、太陽が顔を出したのはずいぶん高いところからだった。
朝日が差し込むと、山々は紅色にパァっと染まりだす。何かが宿るような瞬間だ。そして同時に私の中にも力が生まれ、あわてて出発の準備を始める。行こう!常念へ。
朝日は忙しく天に昇っていき、山々はますます輝きを増していく。


今年は積雪量が多いと聞いていたが、正面の穂高のカールを見れば一目瞭然だ。例年GWにはザイテンの岩場が顔を出すのに、今年は涸沢から上部のカールは真っ白だ。これは槍沢も同じことでよーく見ていると、雪面に一本の線が通っているのがわかる。
私の立つなだらかな蝶ヶ岳稜線もほぼ雪で覆われ、美しいシュカブラが広がっている。それはまるで雪の砂漠だ。
常念岳への縦走路はずっと穂高・槍連峰に見守られながら歩く。目指す常念岳は登山者を挑発するかのように凛々しくそびえていた。
深いV字溝の槍沢 上部はまるで垂直の斜面にみえる 常念岳への縦走路 ピークを越えては下り・・・の繰り返し

縦走路はアップダウンを繰り返しながら常念岳直下に取り付き、ハイライトはラストの500m弱の急登である。 小ピークへ登っては常念を近くに感じ、鞍部に降りると頂はさっきよりも遠くに感じた。 小ピークの連続に辟易してくると自然に視線は西へ向く。サングラスを通してもなお眩しいほど山々は神々しく輝いていた。
最後の登りは岩と雪のミックスだったが特に難しいところはなく、ひたすら登るだけだ。私は思うように体が動かずたっぷり時間がかかった。 10:24常念岳山頂。 予想外に時間がかかってしまったこともあり、山頂に留まる気にならず、祠に軽く手を合わせそのまま鞍部へ向かって歩を進めた。 
常念岳山頂から大キレットを望む
2500ピークから見上げる常念岳  山頂へのハイライトだ 山頂を振り返る
常念の北斜面は滑って降りたくなるような雪面が広がっていたが、歩くには急斜面で”小気味良く”という具合にはいかない。
今まで常念岳に隠れていた後立山連峰も姿を現し、北アルプスが脈々と連なる壮大な景色が広がる。このとてつもなく大きな山の一点に立っていることの喜びをどう表現してよいのだろう。地を踏みしめる”確かな”実感がここにはあった。
大天井岳〜燕岳へと続く稜線 遥か北に後立山連峰を望む 鞍部にある常念小屋 
常念小屋でタクシーを予約してもらい、いよいよ稜線とはサヨナラだ。 稜線を離れる私を槍ヶ岳が見送ってくれた。
しかしセンチメンタルな気持ちもその時ばかりで、一旦下り始めると私は一目散に下界に帰りたくなる。狭い一の沢を尻セードで一気に滑り下り、大滝上部でアイゼンを外すと、ムッとする樹林帯を黙々と歩いた。

安曇野駅から銀嶺の山々を見上げていると、あの稜線に立っていた事がなんだか夢のように思えてくる。 今朝と今が繋がっていないような感覚に陥るが、一歩足を踏み出して苦笑する。 この二本の足の筋肉痛がなにより現実を物語っていた。        (報告者:A)
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