■ 名人達成を果たして
街の至るところから噴煙があがり、歩けば温泉、そして泉質もまちまちとくれば、温泉好きにはたまらない。しかし、そうはいっても、別府市街の温泉を何十箇所もはしごする旅は普通計画しない。せっかく九州まで出掛けるのなら、他にも行きたいところは山ほどあるからだ。
つまり別府八湯温泉道がなければ、こんなにも別府のお湯に浸かることはなかったと思う。結果、数ある別府の温泉はどれも個性があり、使われ方良く、素晴らしい温泉ばかりであった。そもそもそうでなければ、温泉道の企画は成立しないのだろう。
一人旅を経験し、スタンプラリーという大人の遊びを満喫し、別府の街を知り、好きな温泉に入りまくり、結果、温泉名人の称号を得てハクがつく(?)という良い事だらけの企画に、ひたすら感謝である。

<数を廻ること>
温泉道に参加してみて、温泉を極めるなら、泉質や状態などにこだわらず数多くのお湯に浸かることが大切であることを実感した。温泉道のスタンプラリーは、掛け流しあり、循環あり、鄙びあり、高級旅館あり、野湯ありとバラエティに富んでおり、名人になるにはどんな温泉にも入ることになる。
絶対音感を持つ人など稀にしかいないように、おおよそ物事の良し悪しは相対的な判断によるものだ。世の温泉達人の多くが入湯数を稼ぐのは、単に記録を作っているのではなく、達人の域に達するにはまず”数”が必要なのであろう。
また、連続してたくさんの湯に入ることの意味としては、湯の違いを感じやすいことと、欲感とか効能などは立て続けに入ったほうが実感しやすいと思う。
何にせよ八十八湯をまわるだけのエネルギーと情熱をそそぐことによって得られるものは実際に多かった。

<別府に触れる>
湯とともに歴史を刻んできた別府を訪ねる時、共同湯巡りという切り口はとても良い。そこに根付く文化や風習に触れてこそ、その土地を訪ねる価値があると思うが、社交場である共同湯を廻るこの企画はそれを容易に実現してくれる。
あいにく、私は性格的にも時間的にも、地元の方とほとんどコミュニケーションをとることはなかったが、それでもその土地柄を感じることは出来た。何となくであるが、景気に関係なく根本的な部分で元気で威勢がよい感じであり、また観光地らしくウェルカム精神が高い。海と山、そして温泉のある豊かな自然風土、食物が気風を形成するのであろうか。とにかく住みたくなるほど良いところである。

パブリックの意識>
温泉道から話はそれるが、今回の八十八湯のうち、半分は共同湯であったので、”パブリック”の意味を考えさせられた。
共同湯に入るのは一種の緊張感がある。いってみればよその家のお風呂を借りるようなものであるから、非常に気を遣う。それは地元の利用者にしても同じことで、皆が気持ちよく使えるよう行儀がよく、よって清潔である。これこそ”パブリック”の正しい姿であると思った。その土地の人たちが、自分たちの守るべきものをいかに心得ているか、共通認識の高さに感心した。

一方、旅館やホテルの浴場は、綺麗に保たれているようだが、それを保っているのは利用者ではなく、施設の清掃係である。高い入浴料を払うのだから、気遣いなく好きなように設備を利用するのは、その対価としては当然であるからだ。私自身、旅館の浴場はあまり気を遣わない。世間や温泉業界でもプライベート志向が進むのは、なにより気楽で、いろいろ面倒臭くないからだろう。
どにらもその存在価値は相応にあるが、どちらが”精神的に美しい姿”かと言われれば、やはり共同湯ではなかろうか。
共同湯で味わう緊張感も、なかなかどうして、背筋の伸びるような清清しい気持ちになり良いものであった。 
温泉に限らずパブリックの精神は大切にしたいと思った。

<別府八湯 温泉道のススメ>
最初に記したように、別府八湯温泉道は、単なる観光客から温泉好きまでを満足させる素晴らしい企画である。
これから挑戦しようと思っている人がいたら、一経験者としては次のことをお勧めしたい。
「短期間、または一度にたくさん廻った方が面白い」
 温泉を極めるかどうかは別としても、これは一つの”ゲーム”だから、ある程度の負荷(条件)をかけた方が楽しいのではなかろ うか。つまり一日二十箇所以上廻る とか、一日一湯でも必ず歩いてまわる、とか、そうした自分なりの条件をつけると深く思い 出に残ると思う。また、一度にたくさん廻る意味は先に述べたとおりである。
「歩いて廻った方が楽しい」
 お遍路ならぬ湯遍路というくらいだから、おそらく企画側もその意図があると思う。車では通れない路地裏にその土地の香りを 感じる。特に別府はそういう街だと思う。
「どこまでも真面目に参加すること」
 私はあまり真面目人間ではないが、こと遊び(趣味)に対しては真面目である。適当に参加する遊びはたいていつまらない結  果に終わる。情熱をストレートにぶつけるからこそ、喜びも、楽しみも、感動も生まれるのだと思っている。この温泉道のように、 企画サイドがかなり真剣で真面目であれば、なおさらである。
 どのように廻るか、いつまでの名人を目指すか、目標を決めて真面目に取り組めば、期待以上の楽しみ・感動が帰ってくること 間違いなしである。

 <最後に>
 温泉のスパポートには”名人は別府八湯の普及に努めること”とある。
 課せられた使命を果たすべくレポートを書き綴ったが、温泉巡りよりも大変な作業であった。 2008年6月10日 1363代名人