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日 時 平成21年10月20日(水)・21日(木)
天 候 両日とも晴れ
人 数 二人
行 程 白馬猿倉〜鑓温泉(泊) 往復
往路:4時間 復路:3時間
<メモ>
 ・白馬鑓温泉小屋は9月末にて営業終了
 ・テント装備が必須
 ・白馬鑓温泉に水場なし
 ・猿倉山荘も営業を終了しており、登山届けの提出
  ボックスがないため、入山時は事前に長野県警に
  郵送のこと。
 ・猿倉周辺の紅葉が見ごろ

白馬三山の一つ、白馬鑓ヶ岳の中腹2100mの山肌に湧き出す白馬鑓温泉。その湯量はすさまじく、湯の川となって丘陵地を流れ去っていく。初めてここを訪れた時は、展望や泉質よりもとにかく湯量の多さに驚いたものだ。(2002年白馬三山縦走レポ
しかし、ただでさえ雪深い白馬山域、ここに人が入れるのは一年のうち僅かである。
まだまだ残雪残る7月、ようやく山小屋が営業の準備を始める。 7月中旬、小屋が建ち、登山道が整備されてようやく白馬鑓温泉への道が開ける。しかし3000m級の杓子岳、鑓ヶ岳から幾筋もの雪渓がベッタリとつき手強い。何百人という登山者を迎えながら夏は駆け足で過ぎていく。雪渓も徐々に融けはじめ、ようやく沢が見えたと思ったら、もう稜線から紅葉の絨毯が転げ落ちてくる。 そして9月下旬、小屋は短い役割を終えすべて解体され、残るのは一角に積まれた小屋材とコンコンと湧き続ける温泉だけになる。
いよいよ10月、登山道が雪で覆われるまでのほんの僅かな間、野湯となった鑓温泉を楽しめる絶好の時がやってくるのである。
折りしも私たちが白馬鑓温泉に出掛ける日は、オリオン座流星群の極大期ということで、お湯に浸かりながら流れ星が見られるかも?!と気持ちはさらに盛り上がった。

鑓温泉に限らず白馬山域一帯の山小屋は10月中旬には小屋閉めとなる。夏は賑わう猿倉も今はひっそりと静かなものだ。ちょうど猿倉周辺の紅葉が見頃で、艶やかな錦の森と仰ぎ見る白馬岳との景色が見事である。
北アルプスの山々のその高さと険しさは、いつも私の想像を超えていて圧倒され感動し、少し緊張する。
← そんなに担いでどこまで行くの??   ↑ 猿倉付近より白馬岳を望む
お昼前に猿倉を出発。パートナーはザックに入るだけの持ち物を詰め込み重装備。 ちゃんと忘れ物はないですよね??!!
大雪渓との分岐から登山道へ入り、ここから小日向のコルまでは傾斜の緩い登山道が続く。足元はフカフカの落ち葉の絨毯、頭上はブナの葉がキラキラと黄金色に輝いている。30分ほど登ったところで、パートナーが振り返る。
 − 「ポール、入れたっけ?」 −
入れたっけ?と問われても困るのだが、とにかくザックを空けて確かめるが、「ない・・・。」
仕方なく車まで戻って探してみるが「ない・・・」
とりあえず役に立ちそうなストックを掴んで戻り、どうするか相談した。
天候は崩れそうにない、テントは持っているので、ツエルト仕様で一晩を過ごそう! という結論になり登山を続行した。
しかし心配性の私は一夜を無事に過ごせるか不安で不安でしばらくはムッツリと俯きながら登山道を登っていった。

尾根道を詰めて、中山沢(枯渇)を過ぎると、小日向山の尾根まで山肌を巻いていく。
視界が開け、白馬岳、小蓮華岳、白馬乗鞍岳がダムのように向こうの景色を塞き止めている。
西側から吹き付ける風が強いのだろう、東斜面には雪がついていないが、稜線には冠雪が見られ、僅かに雪庇らしきものが出来ていた。
小日向のコルまで一登りすると白馬三山を一望できるなだらかな池塘地帯に出る。
白馬岳稜線 ※マウスを当てると画像が変わります。
コルを越えると景色は一転し、杓子岳、白馬鑓ヶ岳に囲まれた壮大なカールが広がっている。そして真正面には目指す鑓温泉の湯煙を確認することができ興奮する。
小日向のコルから白馬鑓温泉(湯沢)を望む。湯煙に興奮! しかし、まだまだ遠いなぁ・・・
この大きなカールをほぼ水平にトラバースしていくのだが、以前とルートが変わっており、一旦カール底部へ少し下り登り返してから旧ルートと合流していた。
7月中旬小屋明け直後は、沢が出ておらず雪渓をトラバースしなければならない。かなり大きな雪渓なので嫌な感じだ。
お盆過ぎには雪渓もなくなり、沢に橋がかけられるが、あらわになったガレ場がこれまた不気味で、谷からはガラガラと落石のこだまが聞こえてくる。
遠くから見ると、まるで登山道がそこで寸断されているかのようだ。
土砂で登山道が寸断? ガレ場の下は万年雪
杓子沢、落合沢、鑓沢を渡りいよいよ鑓温泉が近づいてくる。しかしパートナーはザックの重さが徐々に堪え始め、口数が少なくなり歩が小さくなっていった。 
最後の沢、湯沢を渡ると、鑓温泉の直下にでる。硫黄の香りに誘われながら頑張って登ると、丘陵地に洪水のごとく湯の川が流れている! 
静かな山中に響く轟音とともに湯が流れ去っていく。 まるで洪水だ。
この湯の川に沿って登りつめると、ついに鑓温泉に到着である。
パートナーは荷物を降ろすのもやっとのようで、悲痛の表情を見せながら腰を下ろした。 ザックの中身は、ビール、ワイン、ウイスキー・・・山中で飲み放題宴会でもやるのかしら・・・? 
さて、肝心の露天風呂の湯加減はどうだろう? 熱すぎて入れない、なんてことになったら大ショックである。
9月末の小屋締めから約3週間、すでに温泉藻で底は緑色になっている。手を入れると適温だ! こんなに素敵なことってあるんだろうか。
誰もいない山中にポツリとひとり。地中から湧き出る温泉に浸かり、黄昏に染まる戸隠山、高妻山、妙高山の絶景に半ば呆然となり、感激とか感動という心の高ぶりよりも、恍惚の境地となって言葉が出なかった。
もう限界!
湯巡りをしている時と違って山の温泉や下山後の温泉というのは、湯に浸かるまでの過程にインパクトがありすぎて、泉質にさほど意識が向かなくなる。しかしこの鑓温泉はそのインパクトに負けないくらいの力強いお湯だ。
まずその湯量。足元湧出場所の湯面は盛り上がって波紋を作っているほどで、豪快に湯が流れ去っている。そして香りは火薬のような焦げ硫黄臭、味は弱い玉子味と苦味の混じったもので、感触はパンチがあり”新鮮”な固い湯である。
小屋材はワイヤーで固定 上方より露天風呂を見下ろす 女性専用風呂は空っぽ
いよいよ陽が沈む頃、私たちはようやく湯を上がり、今夜の準備を始めた。
まずは、小屋跡を一通り確認し、風の当たらない場所で簡単な夕食(カレー)を食べる。キャンプ用のガソリンランタンを灯し、ムードが高まるがやはり風除けのない場所で酒盛りするには寒すぎる。 幸いこの日は無風だったので、露天風呂の真横にテントを立ててみることにした。
持ってきたストック2本を支柱にして、四方をロープで固定する。思ったよりも快適なスペースを作ることができて一安心し、二次会の始まり。
夜空には星が瞬き始め、まだオリオン座は姿を見せぬが、南の空にシューっと流れ星が流れた。
湯に浸かりながら星空でも眺めるかぁ、と外に出てみるが凍えそうな寒さだ。脱衣して急いで湯船に飛び込むが、冷えた体に湯が熱い!!  しかしこの熱さが中枢神経に伝わらないのか? 歯がガチガチととまらない。
快適なテント内。 外に置かれたランタンの灯りでまどろむ
おまけにアルコールも入っているから、心臓は猛烈にバクバクし、かなりヤバイ感じ。「正しくない入浴法」のお手本のようだ。
とてもじゃないが、流れ星を見ながら〜、などとロマンチックな気分とは程遠い。
それでもしばらくすると体が温まり、なんとか冷静さを取り戻した私は、夜の露天風呂を満喫して、テントに戻った。
夜10時きっかりにオリオン座は東の空を昇ってきた。
1時間毎にテントから顔を出して見てみるが、きっちりと教科書通りに右回りに動いていくことに妙に感動する。
自然の多くは不規則で、その不規則さが美を生むのだと思うが、このまさに時計のような星の動きといったらどうだろう、計画通りに事が進んでいくときの満足感に似て、スカッと気持ちがよい。しかししかし、規則的なのは星の動きだけで、期待のオリオン座”流星群”は一向に拝めず、オリオン座が南の空に昇った頃、すっかり気持ちが萎えて私はシュラフにもぐりこみ寝入ってしまった。※後の情報によるとどうやら0時過ぎに流星群がお目見えしたようだ。

翌朝、テントがうっすらとピンク色に染まった頃、外を覗くと、一面に雲海が広がりまるで自分が空を飛んでいるかのよう。背後の山々はモルゲンロートに染まり美しかった。
テント内から朝焼け
裏手の大岩からは別源泉が湧く 霧の中の露天風呂 数週間でこんなにも温泉藻が・・・
↑ 小日向のコルから鑓温泉を振り返り想いにふける
杓子沢のガレ場にて 岩稜が霧の中から忽然と現われる →
本日も晴天!と思いきや、7時過ぎには一面霧に包まれてしまった。
雨が落ちるのが心配だったが、出発前に小1時間ほど湯を満喫し、名残惜しくも鑓温泉を後にした。

視界の悪い中、落合沢のガレ場の通過に緊張し、霧のかかった幻想的なカールを大きく巻き、小日向のコルへ着くと、遥か遠くなった鑓温泉が正面にうっすら見えた。
コルを越えれば、あとは猿倉へ向かってのんびり降りるだけ。
私たちは、体にたっぷりくっつけてきた”湯の香”を振りまきながら、鑓温泉を思い出し、幸せな気持ちのまま帰路についた。
                               <報告者A>
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