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10月19日 快晴の爺ヶ岳 山頂                                             1日目のレポートへ戻る
朝の5時に目覚めたものの、まだ薄暗い。テントの通気口から外を覗くと、昨日と同じ白いガスが一面に立ち込めている。
「ダメ!曇りだよ」とふて寝する。
日差しを感じて起きたときには光り輝く景色が広がっていた。
「起きて!行くよ!」必要なものをザックに突っ込んで外へ飛び出す。テント場の裏側には鹿島槍の雄姿が想像以上の迫力で聳えている。ナナカマドの赤い実が朝露でキラキラ光っている。
朝もやの中のテント場 テント場からナナカマドロードを歩く
小屋の前に着くとガスが下がって、山々が浮島のように浮かび上がってきた。なに?立山?剣?全貌が見えずあてずっぽうに山の名前をあげていく。どこまでも続く雲海が波のように山肌にまとわりつき、躍動感あふれる。この朝陽を浴びる山稜の神々しさはどうだろう、濃淡がくっきりとした朝の景色は格別だ。小屋の前のベンチで一息ついて、朝日に向って爺ヶ岳山頂を目指す。

ナナカマドの赤い実と針ノ木岳 波のような雲海が押し寄せる
しばらくは稜線の南側を歩き、ハイマツ帯に入ると尾根上に出る。ハイマツの頭に見えてくるのは、鹿島槍ヶ岳だ。深田久弥曰く、『北槍と南槍の両峰がキツとせり上がっていて、その二つをつなぐ、やや傾いだ吊尾根、その品のいい美しさは見飽きることがない』。そう、確かに鹿島槍はダイナミックな山容でありながら、品のよい山なのである。
宝石のようなナナカマドの実 稜線直下の赤茶けた低木
ピラミッドの爺ヶ岳を目指して
小屋を振り返れば、その向こうには立山連峰、険しい峰々が魅力的な剣岳が全貌できる。剣岳は見る方向によって全く違う山になってしまう。のこぎりのようなギザギザの尾根が北に伸び、途中で欠けているのが三ツ窓。雪渓が肉眼でも見える。
緑のハイマツ帯の稜線上に赤い屋根の小屋がかわいらしく、改めてロケーションの良さを感じる。小屋の先に続くのは、赤沢岳、スバリ
冬に備えて白毛になった雷鳥
岳、針ノ木岳の山並みだ。なるほど、地図で見たイメージ通りの稜線である。
すれ違った男性の方に、”この先に雷鳥がいるよ”と言われ先を急ぐと、二羽の雷鳥がそれぞれ登山道の両脇で草を摘まんでいた。しばらくすると、”ウェ、ウェ・・・オェッ〜”と鳴きだした。
何故か鹿島槍を見ると”奥歯”をイメージしてしまう・・・
なんてダミ声!相方もそれに呼応して同じように鳴く(最後は”オェッ”)。二人で鳴きまねをしてみると、わずかに反応しているような・・・?起きぬけとあって、足取り重く先を歩く小泉氏とその足元の稜線が逆光で黒光りしている。その向こうに見える雲海とのコントラストがすばらしい。南峰山頂からは遥か彼方に広がる雪原のような雲海がまぶしい。この雲海のお蔭か、あたりはシーンと静まり返って風もなく静寂の世界。本当なら、眼下には大町市街が広がっているはずだ。遠く槍・穂高連峰の雄姿が見え、脈々と続く北アルプスを実感する。
稜線にポツンと赤い屋根の小屋 絶好のシチュエーションだ お気に入りの写真 カッコイイ!
爺ヶ岳の南尾根を雲海がのみこむ 剣岳のノコギリ状の尾根 欠けているのは三つ窓
しばらく、ボーっと静寂の世界を楽しみ、中峰へ向って出発。少し歩くだけで四方の山の様子がちょっとずつ変わっていくのがおもしろい。鹿島槍などは、ぐんぐんと大きくなって、”こっちへこい!”と両腕を差し出しているように見える。あ〜あ、そんなに誘惑しないでよ・・・。誰かさんが触発されちゃうよ。
蒼々とまるで絵のような槍・穂高連峰

爺ヶ岳南峰山頂と雪原のように広がる雲海
鹿島槍の南壁にぶつかる雲海 飛行機の中から撮ったような一枚 爺ヶ岳中峰と北峰目指して
中峰山頂に着くと、案の定、”よーし、鹿島槍まで行くぞ!”と小泉氏。爺ヶ岳の稜線を冷池山荘に向って駆け下りる。あぁ、またしてもクタクタ、ギリギリ山行ではないか!でも鹿島槍のあの姿は登りたくなるよねぇ・・・。などとあれこれ考えているうちに、赤岩尾根の手前あたりまで下ってきた。ここまで下ると、鹿島槍の様子はだいぶ変わってくる。想像以上に斜度のある尾根であることも、布引山から少し下って、また登り返しがあることもよく分かる。手強そうだなぁと思っているところへ、”さっ、戻ろっか”と相方がUターンしてきた。
鹿島槍よりも、下山後の温泉を採ったらしい。
引き返す先の波形の稜線に、1本の白い登山道がずっと通っている。こういう風景を見ると、”人の足ってすごいなぁ”といつも思う。
南峰まで戻り、人の居ない静かな山頂でコーヒーを飲み、くつろぐ。10月中旬というのにポカポカと頬が熱くなるくらいの日差しで気持が良い。
爺ヶ岳中峰より南峰、スバリ岳を望む 立山〜剣岳の稜線 急峻な山と深い谷の様子がよくわかる
美しい波形の爺ヶ岳稜線に登山道がどこまでも続いている 一歩一歩歩いていけば遠くの山にだっていつかは到達できるんだ

テント場に戻り、撤収作業にかかる。乾いたテントをたたむのは久しぶり。前回の涸沢はなにもかもズブ濡れで笑えてくるほどだったが、今回はみんなカラカラ。その分荷物も軽く、快適だ。名残惜しい稜線と別れを告げて、昨日登った道を下っていく。あっという間にガスの中に入り、昨日と同じような風景になってしまった。一枚岩からは、”こんなにも登ったっけ?”と思うほどの長い下りで、ようやく真っ赤に紅葉したカエデやモミジが見え出した。※今回のレポートの背景は、下山中に拾った落ち葉で飾ってみました。自分では気に入っているけれど、読みにくいかな?

紅葉の山はどこも人気があるが、どちらかというと私はあまり興味がなかった。実際、雑誌の表紙を飾るような紅葉のピークにピンポイントで出掛けるのは難しいし、何よりも山全体が秋は寒々しくて、”あぁ、シーズンも終わりなんだなぁ”と寂しい気持ちで一杯になってしまう。
でも今年の秋山はどこか違った。この偉大な自然は、気が遠くなるような昔から、
冷池山荘と鹿島槍の稜線 結構手強そう
冬を越し、芽吹きを迎えて、夏の太陽を浴び、山肌を赤く染めてきたのだから、始まりもなければ終わりもない。うまくは言えないが、移りゆく季節の中の一つの風景に出会ったんだな、というような感じで、少なくとも”終ってしまう”というようなちょっと焦燥感にも似たような感覚はなかった。 私にもようやく”哀愁”というものがわかるようになったのかな。   (報告者:A)         一日目へ戻る⇒

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